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オレの酒が飲めんのか

みなさんご存知だろうか?

オレノサケガノメンノカ

今では懐かしい昭和を代表するフレーズだ。

酔った上司が嫌がる部下に酒を強要する時に使われた言葉だ。

今の時代、これ言ったら即アウト!

 

強要罪
傷害罪
損害賠償責任

 

を問われる可能性があるので気をつけましょう。

 

2015年、忘年会で起きた事故

前社の忘年会には恒例行事があった。その年度の新人社員を担当上司が各部署を回って紹介し、杯を交わすというちょっと昭和のノスタルジーを感じる行事があった。そして、宴のお開き三本締めは新人社員が声高々に「宴もたけなわですがー」とやる。

上司に付いて挨拶に回るのは新人のNくん。ちょっとやんちゃで愛嬌があって可愛いがられるタイプだ。まず、最初に社長の私のところに挨拶に来た。その時、酒が強いと豪語する目の前のNくんに一抹の不安を感じたのを覚えている。

余興も盛り上がり、そろそろお開きの時間が迫るころ。三本締めのNくんがいない。タイミングよくお店の方からトイレから出てこないお客さんがいるとの連絡を受けた。

予感は的中。お店に事情を話してトイレのドアを開錠してもらうと、半裸で天を仰いで顔面ゲロだらけのNくんがそこにいた。目の前の光景に「これは事件だ!」と感じた瞬間、大ごとにはしたくない、近くのビジネスホテルで朝まで寝かせて事実を隠蔽しようかと一瞬考えたが、顔は蒼く、呼びかけても反応がない。

やばい!慌てて救急車の手配をお店にお願いして、私が同伴者として救急車に乗り込んだ。救急車の後に総務部長と工場長が追う。

Nくんのご家族には迷惑はかけたくないので、救急隊員にこちらで対応するので家族に連絡はしないで欲しいと頼んだが、規則なので関係者に連絡を取らないといけないらしい。そりゃそうだ、連絡しなかったらもしもの場合、責任は負えるのかということになってしまう。車内では慌ただしく、救急隊員が救護を行いながら無線で受入先を探し、近くの医療センターに搬送が決まった。

待合室で待っているとNくんのお母さんと妹さんが来られた。私よりいくつか若く、きれいなお母さんだった。深々と今回ご迷惑をおかけした事を詫びて、Nくんの今の状態を簡単に説明した。一切無言で最後まで目を合わしてもらえなかった。

担当医師からの叱責

担当医に呼ばれて、お母さんと私の二人が部屋に入った。

「Nさんは回復に向かってます。もう心配はないでしょう。ところで社長さん、気をつけてくださいよ。最近多いんですよ、会社の忘年会で上司から飲まされて搬送される若い社員の方。昔とは違うんですよ!会社の損害賠償責任ってことになるかもしれないんで、いいですね。気をつけてくださいよ。」

お母さんと妹さんに一礼して病院を後にした。お酒が飲めない総務部長の運転で工場長と私の三人で宴会の席に戻ったが、もう御開きとなって仲居さんがあと片付けをしているところだった。

そこに役員の吉見がいた。おぼつかない足どりで自慢のダンスを仲居さんに披露していた。

飲ませた犯人は役員だった

翌日の昼前にNくんが自宅にやってきた。昨夜は迷惑をかけて申し訳ないと恥ずかしそうに顎を突き出した。どうしてそこまで飲んだのか聞いてみると。いや、実は、、またばつが悪そうに頭を掻きながら。

Nくんは酒が強いと豪語しつつも、そのうち呂律が回らなくなり、前後不覚になってきた。学生の頃の飲み会の勢いで、「センパーイ飲みましょやぁ」と一升瓶片手に各部署まわってお互いに楽しく杯を交わしていた。そこまでは良かったが、途中で役員の吉見が乱入してきた。この吉見が曲者で、酒と博打が大好きでザ・昭和のようなやつだ。年上や権威には弱いが年下や序列にはめっぽう強い。でっぷり突き出た腹を叩きながら、空になったお猪口を差し出す。

「おい、飲めや」

「はい、いただきます」

その応酬がなんども繰り返され、オレの若い頃はなぁと、ありもしないクソみたいな武勇伝が延々と続く。

「ほれ、飲め」

「いやぁ、もう無理っす」

「なにぃ? オレノサケガノメンノカァ!

となって、気がついたら病院のベッドで点滴を受けていたというのだ。

昭和の感覚が、会社の信用を毀損する

幸い、今回のケースでは大事に至ることはなく。本人曰く、たとえ無理やり飲まされたにしても、自分が調子に乗って飲んでしまったことなので、会社や迷惑をかけた人に謝罪したいと言っている。

ただこれが酷いケースになると、本人にそのつもりはなくても、家族が社外労働組合にけしかけて団体交渉を求めてくることがあったりする。そうなると、まぁややこしい。また、本人が会社を辞めたいと思っているタイミングの悪さで裁判所に被害届を出すとか、労働基準監督署に相談するなどと脅して退職する時の有利な交渉条件に使われたりするケースもあると聞く。

会社はリスク回避のために就業規則を定期的に見直したり、社員の教育にお金も時間もかけるのだが、お酒が入って気持ちが緩んでついうっかりってことは人間だからありえることだ。立場に関係なく相手を想う気持ちが悪意のない強要になってしまうこともある。

経営者は役員の善管注意に気をつける

だからと言って会社での飲み会禁止というのはコミュニケーションにも支障をきたす原因の一つにもなるし、社員のやる気や張り合いも無くなる。なにより「飲み会のない会社」と聞いただけで風通しの悪そうな会社だ。

酒癖の悪い社員はどの会社にもいるようだ。そこを管理する立場にある役員がこれではどうしようもないのだが、残念ながら経営者や後継者の方の悩みはつきない。

そういう管理者や後継者、経営者も人間だ。お酒が入ると緩んでしまう。

特に経営者はお酒が入る場面では言葉遣いや態度には十分気をつけたい。善管注意義務が経営者を見張っているという意識を忘れてはいけない。

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