大塚家具の身売りには戦略があった!?
2020.06.29
私は事業承継という仕事にあたり、大塚家具を同族経営のケーススタディーとして良い勉強をさせていただいています。
親子の対立によって、一度は久美子社長が解任され、再度プロキシーファイト(委任状争奪戦)で復活する様は完成度の高い映画を見ているようです。
また、大小の違いはあるにしても同様の経験を経てきた自分としては他人とは思えないのも事実です。
久美子社長まさかの決断
2019年、ちょうどクリスマスが近い12月12日の夕方、淀屋橋の大塚家具のショールームの前を通りかかりました。
私はクライアントさんに訪問する際にここをよく通るのですが、この時感じた事なのですが、「スタッフの皆さん元気ない」と、感じたのを覚えています。
たまたまなのかもしれませんし、店内を自由に見て回れる配慮なのかもしれませんが、「いらっしゃいませ」もなく、静かな感じでした。
そんなこと思ってた矢先、このニュースです。
びっくりしました。
ヤマダ電機の傘下入りです。
とうとう、お家騒動の結果が出た、と言った感じです。
出典:JBPress
ヤマダ電機に51.7%の大塚株を売却して実質上の子会社となり、老舗の高級家具店が40億円で売却です。
その企業価値が高いか安いかはデューデリジェンスの先生にお任せするとして、僕はその程度か、と感じてしまったのです。
限界だったんでしょう。
しかしここで少し疑問が。
安売りで全国展開目指す家電のヤマダ電機と高級家具でセレブ向けの大塚家具ですが、シナジー効果が発揮できるのでしょうか。
ヤマダ電機が大塚家具の高所得者層を取り込みたかっただけなんでしょうか。
心配なのは大塚家具にはあのお家騒動以来どうしても負のイメージがあって、この吸収合併で払拭できるのでしょうか。
久美子社長が父親の勝久会長を解任して以来、そのプロセスを注視してきましたが、結果論になってしまいますが、今のところ、久美子社長の惨敗ですね。
新型コロナウィルスの影響による自宅待機で家具や家電の買い換え需要が喚起されるかと思いきや、ヤマダ電機と合併直後の12月13日の株価は292円と上昇するも、4月3日には111円に下落しています。
素人目からしても苦戦を強いられています。
それに対して、父親の勝久氏の匠大塚は見事に復活している。
老舗の斜陽産業に変化と久美子社長自身の路線を築きたい気持ちはよくわかりますが、結果として理想の承継ではなかったという事になりました。
ここは父である勝久社長にきちんと謝るべきでしょう。
それと久美子社長を推し、勝久社長に逆らった古参役員は、この責任はとるべきでしょう。
責任の取り方はそれぞれでしょうが、1〜2年は役員に添え置いて、そのうち元大塚役員は全員解雇になるのではないでしょうか。
そして助け舟をなくした久美子社長は最後にヤマダ電機に捨てられる?
そうならないように再建に向けて躍進してほしいです。
実は身売りにはシナリオがあった!?
そんな中、大塚家具の身売り騒動を少しユニークな視点で捉えてる記事(JBPress12月14日発行)を紹介します。
かなりうがった見方にはなってますが、鋭い視点です。
出典:JBPress
大塚家具の親子ゲンカには当初からシナリオがあったというんです。
親子ゲンカが表面化する前、すでにニトリやイケアに押されていた大塚家具は、収益が大きく悪化していました。
あの2014年の派手な親子ゲンカは自作自演だったという見方もあるのでは?
グッドカンパニーとバッドカンパニー
大塚家具経営陣の間では、すでにあの時点で切り離す計画ができており、大きくなりすぎた大塚家具を娘の久美子社長が担当し数年かけて他者へ売却。
そして父親の勝久氏は自身で新会社「匠大塚」を創業。
久美子氏に追い出された格好の勝久氏は、創業の地である春日部市を拠点に新会社「匠大塚」で従来型の会員制・高級家具販売を続けている。
「古いやり方」の匠大塚は、順調にビジネスを拡大している。
「新しいやり方」を選択した久美子社長率いる大塚家具は計算通り?にコトが進む。
今回は実験という位置付けもあったのではないか。
古いやり方か新しいやり方か試してみて、ダメな方を切り離す。
将来性のある事業を継承するグッド・カンパニーと、不良資産・不良債権を継承するバッド・カンパニーに分けるのは、事業再生の常套手段である。
こう見ると、勝久氏の匠大塚が「グッド」、結果的に久美子氏が引き継いだ大塚家具が「バッド」になる。
51%で43億円とかなり買い叩かれはしたが、不良在庫と借金を抱えた大塚家具の売却には成功した。
これで身軽になったグッドの匠大塚が成長軌道に乗れば、めでたく「再生完了」である。
あと、やはりというか、ここ最近の自宅待機も後押ししての驚異的な伸びのアマゾンの存在。
米国ではアマゾンの影響で小売大手が続々と倒産している。
出典:JBPress
最近では2017年には玩具販売のトイザラス。
今年に入って、ファストファッション大手のフォーエバー21が破綻したのもアマゾンの影響と言われています。
日本の小売に占めるECの割合は6%強。
これが米国並みの10%超になれば、ヤマダ電機ですらアマゾンを恐れるのは間違いないです。
大塚家具を引き受けたヤマダ電機がアマゾンに飲み込まれた時、古いやり方の一点モノの高級家具を扱う「匠大塚」が生き残り、お疲れさまと勝久会長は優しく愛娘の久美子社長を迎え入れるのだろうか。
このシナリオ書いた人がいれば、一度お会いしたいもんです。
ここまで手の込んだ芝居はないとは思いますが。
気になります。
久美子社長続投にはウラがある?
どうも今回の大塚家具の身売り劇にはウラを読んでしまうんです。
どうしてそこまで久美子氏は社長続投に固執するんでしょうか。
普通に考えたら、数年したら解任されるのは目に見えてます。
これまでも大塚家具の身売り話は、貸会議室大手のTKPとヨドバシカメラです。
いずれも話がまとまらず、買収は実現しなかった。
ヨドバシカメラによる買収案は、久美子社長の退任が条件だったが、
彼女は首を縦には振らなかった。
経営状態がどんどん悪化する中、なぜそこまで続投にこだわるのか、だれでも不可解に感じるのは当然でしょう。
親子ゲンカの裏ではしっかり親子の策略があったのではないか、と勘ぐってしまうのです。
まず、2008年に大塚家具の管理会社「ききょう企画」が勝久会長の保有する大塚株130万株を買ってます。
ききょう企画が5年償還付きの15億円の社債を発行して、本来2013年に償還しないといけないところ、口頭で延長の合意がなされたとなってます。
そして、2015年に世紀の親子ゲンカの勃発。
勝久会長、プロキシーファイトに敗れ解任される。
ブチ切れた勝久会長、今すぐに返せ! とばかりに利息付きで17億円要求します。
190万株弱の株担保で三井住友から借金して、さらには三菱UFJにまで借金して返済します。
ここからなんですが、
2015年に新社長に久美子氏になってからこれまで配当が40円だったのを80円に倍増させてます。
この時、お騒がせしましたセールで利益は出たのですが、翌年は反動で2015年に3億6千万円あった利益が翌年度の2016年には45億円の損失まで落ち込みました。
こんな状況であるにも関わらず配当はそのまま80円で株価も1000円だったものが1500円〜1600円に跳ね上がってます。
そのタイミングで勝久会長は所有する全株を売却してるんですね。
普通なら配当増やせば株価が上がる。
勝久氏が喜んで売却するって構図は誰にでも読めるはず。
本当に骨肉の争いをしてたんであれば、そこは阻止するんじゃないでしょうか。
利益も出てないんだし。
2014年には115億円あったキャッシュも2017年には18億円と激減してます。
もちろん本業での売上減少によるキャッシュアウトが直接的な原因であるにしても、株の配当として40億円も当てていたこともまた事実なんです。
まるで勝久氏の高値売却を後押しているかのような会社の動きは、利益相反を疑われてもおかしくありません。
あの『世紀の親子喧嘩』という構図があったからこそ、できたことです。
総額60億円ともいわれる勝久氏の資産は、いずれ遺産として子供たちに分け与えられていく。
そのひとりに久美子社長が入っていることは想像に難くない。
もし久美子社長が辞めて大塚家具の経営陣が刷新されでもしたら、これまでの不可解なキャッシュの流出に疑いの目が向けられ、追及されてもおかしくはない。
久美子社長が何としても続投せねばならない背景には、こうした『お家の事情』があるのではないでしょうか。
なぜヤマダ電機は久美子社長の続投を容認したのか?
やはり背景にはアマゾンの存在があったのです。
店舗を持たないネットでは価格で対抗できない。
実店舗での差別化は?
それがトータルサービスなんです。
ヤマダ電機が傾注していくのが、リフォームを始め、家電、キッチン用品、家具など生活を核にしたトータルサービスを接客から様々な提案をしていく住宅事業なんです。
そんなときに2018年7月に大塚家具との提携話が浮上してきました。
実は山田会長には娘さんと息子さんがいらっしゃって、一部報道には「亡くなられた娘と同じ年頃の久美子社長の窮状を見て情にほだされた」と解説するものもありますが、どうやら山田会長、そんな経営に私情を挟むような男ではなさそうです。
息子さんはヤマダ電機の取締役でしたが、取締役から外してしまうという経営者として慎重かつ冷徹な面をお持ちのようです。
かと言ってヤマダ電機としても後継者は欲しい。
それ以上に欲しいのは、かつての高級家具専門のイメージが今なお残る大塚家具というブランドです。
久美子社長の知名度も良い悪いは別として、ブランドの一部であり何より大塚家です。
経営者としてのやる気もあって(経営手腕は別として)、ブランド、知名度もある。
ヤマダ電機にとっても久美子社長の続投は当然の帰結である。
しかし、そのクビはいつまでも安泰というわけではない。
大塚家具への投資額は3年で回収できると山田会長は会見で述べているので、3年様子を見てダメなら、その先に温情はない。
さて、背水の陣となった大塚家具ですが、コロナが背中を押してくれるのかヤマダとともに沈むのか、私個人的には、後継者のスターとして頑張ってほしいものです。
応援してます。