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社員が辞めるとき

後継者の皆さんなら、会社で起こる様々な出来事で、本当に辛く打ちひしがれる思いの一つや二つはあるでしょう。例えば、信頼していた部下に別れを告げられた時。あれは辛いです。後継者じゃなくても上司部下の関係にあって部下からの宣告は騙されたような、全人格を否定されたような寂しい思いに支配されます。

後継者は辛い

特に後継者の場合、社員の「辞めます」の一言は自分自身が否定されたことと同時に先代(親)からの評価として、「情けない」とか「力不足」などいろんな意味で低評価を付けられた気にもなるのです。だから、後継者にとって社員の「辞めます」は通常の辛さとはまた別の苦痛があると感じております。

そんな時、楽になれる特効薬や解決できるノウハウがあれば知りたいですよね。でも、私の知る限り、それはないです。

何度も繰り返していると免疫がつくから大丈夫と言う方もいらっしゃいますが、どうなんでしょう。私はその辺りがよくわかりませんが、状況がその都度違うので、それを免疫というのはちょと違うかな、という気もします。しいて言うなら、「また来たな」と言う身構える心の余裕くらいのもんでしょうか。その後、考え込んだり自分を振り返ったりするのは何度経験しても変わらないような気がします。

逆に、免疫がついて開き直るような強さを持ってしまっても自省の念が芽生えず、成長の伸び代がなくなるのではと思ってしまいます。

耐えて、また悔しさや寂しさが蘇ってきて、耐える。その繰り返し。そして、そのうち緩和されるのを待つしかないと思います。

社員の「辞めます」は怖い

社員から辞めますと告白された事。今まで何回経験してきただろう。正確には直属の上司か部長経由で、「社長お話があります」と来る。直接来る場合もたまにある。何度も経験してしまったので、その時の表情やトーンで、大体の話の内容や原因まで分かるようになってしまった (^^;;

表情やトーンだけでなく、ツカツカと近づいてくる足音やトントンとノックする音で察知できる。「来たぞ来たぞ。。」と内心ビクビク怯えた表情を悟られないように、口角を吊り上げ目を見開いて「ほーい、どうぞ〜」と部屋の中から声を掛ける。予想に反して、部長がアホづら下げて「あのぉ、この旅費精算のタクシー代が。。」と来られたら内心、「そんなこと聞いてくんな!」と怒りたい反面、ホッとした安堵で部長を笑いながら叱責する。はぁ〜ほんと疲れる。

信頼してた部下の辞めます

告白されて一番キツかったのは、僕が社長に就任する前。将来有望で役員候補に挙げていた香椎くんがいた。僕は彼を信頼し、彼が60歳になるまでの計画を思考したり、二人で将来の会社のビジョンも語っていた。

香椎くんは大阪出身で嫁の実家が京都の田舎町ということで一緒に流れてきたパターンだ。このパターンの社員は結構多くて、彼らは共通して皆優秀だった。香椎くんが優秀で他の社員と一線を画すところは、挨拶する姿勢だ。野球部出身が起因するのかどうかわからないが、いつも一度静止して45度頭を下げる。これは私だけではなく周りの先輩社員にも同様なことをしていた。本人はこれが特別な事ではなく普通だと思っており、違和感は全くない。

仕事も優秀でデータベースを作ってエクセルで管理できるようにしたり、わかりやすく資料をまとめるのも営業の香椎くんだ。外見も爽やかな好青年で俳優の鈴木亮平に似ている。また、協調性に富んでいて愚痴や陰口は彼から聞いた事は一度もなかった。

強いて欠点を挙げるとするなら、たまにどことなく一点の陰りのような一抹の不安を感じさせる表情をする。そんなある日、香椎くんから「社長お時間いいですか?」とあった。

僕は、先日から始まったプロジェクトの相談だろうと思い、簡単な打ち合わせの部屋に入った。

開口一番。

表情を変えずに。

「社長、辞めさせて下さい。」

「え?」

「会社を辞めたいと思います。」

事態が飲み込めるまで少し時間がかかったように思う。

目の前の現実と否定したい内面が交錯したその瞬間、人間の視覚は歪む。香椎くんの後方にあった白い壁がムンクの叫びのようにグニャ〜〜って歪み出した。

僕が大学1年生の頃、結婚を約束するほど仲のいい可愛い彼女がいた。講義が終わって、いつものように一緒に立ち寄る八王子の駅ビル。話があるので少し時間いい?と聞いてくるのでなんか他人行儀だなと思いつつ、屋上のベンチに腰掛けた。

「あのね、私好きな人できたの」
「え?」
「だからもう会えないの」

その時も彼女の後ろのレンガの壁がグニャ〜と歪んだ。

たぶん、自浄作用なんだと思う。前述したが、変えられない現実と認めたくない意識が激しく交錯した時、視覚に変調を来たす。日常は経験できない感覚だろう。学生の彼女の時も部下から退職を告げられた時も、成長したつもりでいたけど身体はそのまま変わっていないようだった。私はその時、学生の頃も今も理由も聞かずにその場から立ち去って、現実からひと時の間だけ逃避するようにしている。もちろんその理由も自分からは聞かない。

後継者の皆さん。後継者なら誰でも通る道です。むしろ険しく辛い道を避けて楽で平坦な道を歩いていれば成長は望めません。
強い経営者になるための予防接種だと考えて前向きに受け入れましょう。もちろん、免疫のない予防接種ですが。

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