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社員がひき逃げした!?

2021.08.11

後継者

いつも通り、仕事をしていたら、私に知らない男から電話があった。

要件を聞くと、なんと!うちの社員がひき逃げしたというのだ。

「オタク社長さん? わしオオタっちゅうんやけど。」

「はぁ、オオタさん?ですか。。」

「おう、うちの娘がオタクの車に轢かれたんや。どないしてくれんねん!」

受話器から10cm以上離しても充分聞き取れる音量だ。

そのオオタという男の話によると、

昨晩の9時頃、地元の公立高校から自転車で帰宅途中の娘が車にぶつかって転倒した。
そして、車はそのまま立ち去った。

その後帰宅した娘の証言によると、車のドアに書かれた会社名を記憶していた。

我が社の車にぶつけられたと親に打ち明けたのだ。

「私、社長の玉林ですが、ちょっと確認が取れませんので、

今すぐ調べて1時間後に折り返しお電話します。少々お待ち下さい。」

一旦、電話を切って、曽山工場長と各部門長を集めた。

 

昨日の夜9時に社用車を使った者は誰かを確認すると、1人該当者がいた。

西井くんだ。

仕事はよくできるけど、いかんせんお調子者で落ち着きがない。

彼は翌日の名古屋出張の準備で、遅くまで仕事をしていた。

明朝に名古屋に直行するという事なので、会社の車で帰宅した。

本来は翌朝会社に来て車を乗り換えるのだが、早朝の場合のみ認めていた。

曽山工場長が電話をかけるが、どうやら西井くん、運転中のため繋がらない。

 

そして約30分後、かかってきた!

「社長、おつかれーっす。どうしたんすか?」

「おう、西井くん、おつかれー」

「西井くんさ、ちょっと聞くけど、昨日会社の車で帰ったよな。途中なんかなかった?」

「えー、あー、ありましたね。女子高生が自転車で転んで、、」

西井くん曰く、

会社に面した道路は夜間、外灯の明かりだけで暗くて幅も狭い。

で、前方を照らすと、自転車に乗った女子高生が確認できたので、

ゆっくり近づいた。

なんとその女子高生、携帯片手にイヤホンしながらメールしてる。

後ろから抜かすよ、という意味のクラクションを一回「プォン」すると、

慌てたのかヨロヨロとバランスを崩して、パタンと車側に転けた。

慌てて、車外に出て、女子高生に駆け寄って、

「病院行くか」と尋ねたが、大丈夫の一点張り。

怪我の様子もないし、こんな夜中に女子高生と2人きり

という微妙な空気に違和感を感じて、その場を立ち去ったという。

 

「その女子高生の親から電話があってな、なんかヤカラっぽくて訴えるとか言ってんのよ」

「マジすかー、こっちが訴えたいすよ!向こうからぶつかって来たんすよ!」

「ま、帰って来たらゆっくり話聞くわ、出張頑張ってね」

受話器を置いたその手で、オオタさんに折り返し電話する。

直接会って話したいという旨だけ伝えて、工場長と指定された喫茶店に向かった。

 

今回の目的は、誠意を見せる事。社長自ら直参して謝罪するという事。

決して怒らせない。反論しない。安全安心ポジティブな空気作りに徹する。

訴えるとか金品の要求があったり、

脅迫まがいなことも想定して、

工場長にはポータブルレコーダーを忍ばせた。

 

店に入ると一番奥で壁を背にした大柄な男がいる。

スポーツ新聞を少し傾けて、鋭い眼光が私たち二人を凝視している。

「やばい、、ホンマもんや」

ここは、気持ちを引き締め、当たって砕けろで名刺を差し出した。

続けて工場長が差し出す。

「あのぉ、あ、私ぃ、えぁ」

工場長のモタモタにイラついたオオタさんは、名刺を工場長の手からひったくるように奪い取った。

そのまま工場長は凍りついてしまった。

 

「このたびは大変ご迷惑をおかけしました。お嬢さんの具合はいかがでしょうか」

誠意だ誠意。工場長にも余計なこと言うなと釘を刺しておいた。

「いやね、社長。私が言いたいのはね。。」

灰皿に煙草を押しつけながらドスの効いた声で言った。

「あなた2代目さん? 見りゃぁわかる。へへ」

オオタさんが言いたいのは、こういう事だった。

あなたの会社にうちの末っ子のバカ娘が迷惑かけた。申し訳ない。

ただ、世の中には当たり屋や事故の不始末で大きなトラブルに発展する。

あなたの会社も被害を受けるリスクがあるから気をつけてほしい。

それと、たとえどんなに小さなことでも社員から「報告させる空気」を社長が作る努力をしないといけない。

そういう事だった。

加えて「跡継ぎボンボンは甘い。もっと気を配れ」とも。

 

オオタさんは会社を2度失い。今は人材派遣会社を成功させた苦労人だった。

たしかに内面から出てくる凄みとオーラは普通ではなかった。

実はオオタさん、会社と私を試していたのだ。場合によっては損害賠償を請求しようと企んでいた。

社長やそこの社員がどんな対応するか興味があったらしい。

そこで、社長が自ら出向いて誠意を見せたのは大きかった。

会社が存亡の危機に直面していても社員に後始末させて、ゴルフに興じる社長がいたり、

あと嘆かわしいのは加害者であるにも関わらず。

先方の足元をみて、被害者である相手を会社に呼びつける不届きな社長もいるんだとか。

これでは解決する問題でもすぐに訴訟に発展するのだそうだ。

 

教訓、たとえ状況が軽微でも、事故証明は絶対にとるのが鉄則。
そして報告させる。
通勤の移動中は会社の管理下にあると心がけよ。

 

 

※なお、クレーム専門家の話によると初っ端から社長が出向いて先方と交渉にあたるのは良くないそうです。ただし、中小企業の場合、謝罪という究極の交渉に現場の社員が対応できるケースは極めて少ないのが現実です。場合によっては傷口をさらに広げる結果になりかねません。要求されても応じない。社長が直参した誠意だけ伝える。この2点を守る気持ちで対応することが重要です。

 

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